「……総司は戦には出さんと言っただろう」
「戦が始まるまでの話しです。大坂には雨が降っているから来られなかっただけでしょう」
その言葉を聞き、土方は眉を寄せる。確かに今すぐに戦が起こる訳では無い。ただ、いつ火蓋が切って落とされるかは分からないのだ。わざわざそこへ病身の沖田を置くことは躊躇われる。
「……副長の気持ちも分かります。しかし、https://www.liveinternet.ru/users/carinacyril786/post502400219// https://www.bloglovin.com/@carinacyril/12261296 https://carinacyril786.pixnet.net/blog/post/122397451 沖田先生を長期間おひとりにしておく方が危険です。…………お耳を、」
そう言うなり、桜司郎は土方の耳に口を寄せた。そしてある事を告げる。
それは、隊士の一人である小林啓乃助という男が怪しい動きを見せているということだ。恐らくは間者ではないかという見立てである。
「…………それは、確かなのか」
「ええ。不動村では屋敷が広すぎたが故に気付きませんてしたが……。道中、こそこそと辺りを見渡したと思えば、何やら書き付ける様子がありました。それとなくその一部を拝借したのがコレです」
懐から紙切れを取り出すと、目の前へ差し出した。そこには、"沖田 近藤妾宅ニテ療養ス 護衛ナシ"と書かれている。見ようによっては、襲撃を促すものに見えなくもない。
そもそも一番組でもなく、世話になっていない彼が沖田を気にかける道理はない。むしろ、派として動いていたという声すら上がっている。
「……いくら病に冒されているとはいえ、沖田先生を狙おうとする輩は多いです。それに、近藤先生のお妾さんや子も危険に晒されます」
その証拠と言葉が迷える背中を一押ししたのか。
「…………分かった。明後日、十六日には俺たちも伏見奉行所へ詰める。その日は総司の部屋も出来上がってねえだろうから、十七日の昼までに合流してこい」
「はい……!有難うございます!」
「……ったく、お前さんは本当に総司のこととなると、目の色が変わるな。妬けちまうぜ。たった二日も無いだろうが……逢瀬として楽しんだらどうだ」
呆れた口調ながらも、その瞳は温かみを帯びている。沖田が兄と慕うだけのことはあり、弟の恋を見るようなそれだった。
「お、逢瀬って…………。からかわないで下さい。では、もう出ますので」
頭を下げて去ろうとするが、その背へ声が掛けられる。
「待て、永井様が逢いたいとのことだ。せめて挨拶だけでもしておけ」 土方の促しにより、桜司郎は永井の元を訪ねた。境内は叩き付けるような雨のせいで、いくつもの水溜まりが出来ている。
それを眺めるように、社殿の壁に背を預けながら目を細めていた。
「……おお、来たか。鈴木桜司郎君」
「……失敬、今は桜司郎と名を改めております」
そのように言えば、永井は驚きの色を濃くする。
「榊君……。その苗字を名乗るということは……思い出したのか?なら、話しは早い……。ワシに着いてこんか。お主のような逸材が前線に立つことはあるまい」
勘繰るような視線を向けられ、桜司郎は俯く。根からのであり、それも神童と持て囃された榊家の跡取りだ。然るべき位置にいるべきだと永井は云う。
悪気は無いのだろうが、まるで前線で戦う者が使い捨ての駒のように聞こえてならなかった。
「……残念ながら。ただ私を拾って下さった女人の苗字を借り受けたに過ぎません。それに……長い間時勢に取り残された人間に出来ることと言えば、で戦うことだけです」
全てでは無いが、記憶を取り戻したことは伏せておく選択をする。今は桜之丞ではなく、桜司郎の生なのだ。過去に囚われすぎるのも良くない。
「気を悪くしたか……?まあ、良い。深くは問わん。野暮というものじゃな」
「そうして頂けますと嬉しいです」