「松之大廊下」は、幅が4m、長さが50mある畳敷きの廊下である。
これぞまさしく、って感じである。
年末になると放映される確率が高くなる、赤穂浪士の一場面にでてくるが、じつは、刃傷沙汰があったのは、その一度ではない。
その二十八年後、長門長府藩の藩主に、
斬りつけられたのである。
一応、刀番に太刀や脇差はあずけるルールではあるが、実際のところ、殿中差しと呼ばれる短刀は所持することができる。
浅野内匠頭が打ち損じたのは、長袴で動けなかったためと、殿中差しであったためであろう。
一方の吉良は、狩衣姿であったため、身軽に逃れることができた。
ちなみに、長袴は、礼装ではあるが、「動きにくいですよ」、という戦意のないことを示す意味でも着用されていた。
こんな馬鹿長い廊下、真ん中あたりでガチに襲われでもしたら、目も当てられない。
体術や護身術に長けているとか、短距離走が五輪選手並みにはやいとか、でないかぎり。
ここを、長袴でしずしずあゆむ。
うーむ、たしかに、「殿中でござる」って気分になるかもしれない。
永井が先頭で、そのうしろに局長と副長が並び、そのうしろにおれ、最後尾に双子がいる。
うしろをとられるのは、正直、好きじゃない。とくに、なにをしでかすか、いいだすかわからない双子が、うしろにいるとなると・・・。
居心地がわるい。
真ん中あたりまできたとき、不意に永井が肩を震わせ笑いだす。
一瞬、どきっとしたが、局長と副長、それから、双子も忍び笑いをしだす。
「よくやった、近藤。じつに、見事であった。みたか、馬鹿どものを・・・」
「歳、それから、俊冬と俊春が、うまくやってくれました。わたしは、自身の思っていることを、告げたままでございます」
「おれじゃねぇよ、局長。それにしても、驚いた。おれですら、忘れてることやしらねぇことを、よく調べたもんだ」
を・・・」
「歳、それから、俊冬と俊春が、うまくやってくれました。わたしは、自身の思っていることを、告げたままでございます」
「おれじゃねぇよ、局長。それにしても、驚いた。おれですら、忘れてることやしらねぇことを、よく調べたもんだ」
のたくさんの傷のなかに、やさしげな笑みが浮かぶ。
「源さんが、な・・・」
局長もまたあゆみをとめ、ぽつりとつぶやく。
山崎の記録に、井上の口述・・・。
それを覚え、必要があれば事実を確認したり補ったりし、頭に叩き込んでいる双子。
まさか、異世界転生で受験生もやってました、ってことか?
「さぁ、おまちだ」
永井にうながされ、またあゆみはじめる。
井上と山崎を追慕しつつ・・・。 渡りきったところで、小姓っぽい若者が片膝ついてまっている。
「上様は、黒書院にておまちでございます」
永井は無言でうなづくと、体ごとこちらへ向き直る。
「わたしは、これにて。俊冬、俊春、三名を頼む。それと、かえる際には、白鳥濠から二の丸へ抜けよ。よいな」
「はっ」
永井の言葉に、双子は頭を軽く下げ、了承する。
「近藤、土方、相馬、またちかいうちに」
「はっ」
局長が応じ、同時に三人で頭を下げる。
局長と副長が笑いつつ、うしろにいる双子へと
局長と副長が笑いつつ、うしろにいる双子へと「対面は、さほどながいものではござりませぬ。局長も副長も、申されたいことはおおございましょうが、いまはどうか、心のうちにとどめおかれますよう。上様も、あなた方となんらかわらぬで、心や感情も同様にございます」
俊冬が、うしろからアドバイスを送ってくる。
そういうふうにきくと、いろんなプレッシャーに耐え切れず、憔悴しきってどんよりしまくっている図を思い浮かべてしまう。
局長と副長も、同様に思い浮かべてるかもしれない。
「あいわかった」
局長が、言葉みじかくそう応じる。
ずいぶんとあるいたところで、小姓がやっと立ち止まった。
白書院は、一般大名との謁見の場である。一方、黒書院は譜代大名といった超セレブとの謁見の場、であったかと思う。
つまり、黒書院のほうが、将軍にとってはよりプライベートな空間ってことになる。