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「このマンションに

「このマンションに倫也と二人で暮らしていたのは、あなたじゃなかったって事を言いたいの。私が倫也の手を放して留学を選んだから倫也は仕方なく、あなたを選んだの。分かる?」

 

「そうなんですね?仕方なくだとしても妻は私なので、今、それを言われても何も変わりません。何が仰りたいのかも分かりません。」

にっこりと笑顔を向けて言う。

 

「はっきり言わないと分からない?倫也は私が好きだったけど仕方なく別れたの!帰ってきた今、あなたより私と生活したいの。別れたら?お腹の子は引き取って育ててあげるから。」

 

「嫌ですよ。あなたみたいな女性が母親とか子供が可哀想ですもの。それに夫婦が別れる事は夫婦二人の問題で、第三者である無関係なあなたが決められる事ではありません。例え倫也さんと両想いだとしても口を出す権利はありません。用件は以上ですか?終わりましたらお帰り下さい。」

 

動揺もせず顔色も変える事なく倫子が言うと、華江は悔しそうに下唇を噛んだ。

 

 

「一応、妊婦だから遠慮してあげてたのよ?私ね…倫也の……初めての女なの。」

 

「だから?」

 

ズズッーと倫子の手にあるグラスが空になり、解けた氷の水分を飲む様にズズッー、ズズッとストローの音がしていた。

 

「は?聞こえてた?もう一度言いましょうか?私、倫也の…「聞こえてますから結構です。」

 

言葉を遮りグラスを置くと、倫子が華江に顔を向けると、満足気に話し始めた。

 

「……男ってね、最初の女は忘れられないんですって。私もね、忘れられなかった。倫也より良い男はいなかったわ。色んな人と付き合ったけど倫也が一番だった。二つ下だから当時は頼りなくて別れたけど、今はあんなに大きな会社の副社長でしょ?こんなマンションにも住んでてかっこよくなってるし、倫也みたいな男に似合うのは私の様な華やかな女性で地味子ちゃんじゃないの。ね?分かるでしょ?あなたの為の有利な情報でしょ?」

 

「話にならないです。」

と言い、笑顔を見せる。

 

「何が?倫也と住むのに相応しいのは私だって言ってるの!」

「最近……華江さんみたいな人いましたよ?出会いが早ければ私がこの家に住んでいたって言うんですよねぇ。仮定の話されても…痛くないですか?」

 

「そんなのと一緒にしないでよ!!」

キンキンとした声が響いた。「一緒ですよ?倫也さんの初めての女性が華江さんだって分かりました。でも…だからってそれがなんなのですか?誰だって初めての相手はいますよ。」

 

「初めてって特別なの!だから!!私がここにいたはずなのよ!」

怒鳴られて倫子は冷たい目を向ける。

 

「くだらないです。初めての女性だからここにいたというなら、今頃、倫也さんの過去の女性が全員いますよ。」

呆れた様に言い捨てると華江が今までと変わり、小さく呟く。

 

「別れて…。」

 

「あなたも!別れてますよね?あなたを好きだと言うなら、倫也さんが私に話す事であなたから聞く事ではないです。こんなマンションに住んでるから華江さんの方が似合うとかそういうのもおかしな考えです。実は借金だらけでここは売りに出すことが決まっていると言ったらどうします?そんな倫也さんはいらないって言うんじゃないですか?かなり我儘で自分勝手な痛い女ですよ。」

 

私が少し前に出会った「な、何よ!奥さんがお腹が大きいから相手にされないし可哀想だと思ってしてあげたのよ!」

 

「それはどうも。でもいいんですか?たしかに有利な情報ですけど…それ、不貞行為ってやつですね。私、華江さんに慰謝料請求出来ますけど…妊婦だし通常より割増で…私が欲しいと言っていると言いましたよね?欲しいと言って手に入るなら言いたいだけ言って倫也さんを手に入れて彼に慰謝料払ってもらったらいいんじゃないですか?あ、でも離婚しないですし、しばらくは別居かな。このマンションは私名義にして、倫也さんにはワンルームでも借りてもらいます。そこで仲良くお暮らし下さい。華江さんの言う通り、倫也さんと寝たと言うならですけどね。」

 

表情を変えずに倫子は言い捨てた。

 

「寝たって言ってるでしょ!」

ソファに座り、はぁ、とため息を吐いて華江を睨む。

 

「過去の話はどうでもいいです。出会った時、倫也さんには彼女がいたし、いい大人で見た通り年齢差ありますしね。過去に文句を言った所で時間は戻らない。あの時、あの年齢で結婚まで考えた女性に電話で振られたんですよ、倫也さん。あ、相手は知ってますけど、華江さんじゃないですよ。華江さんが留学した後、倫也さんには倫也さんの時間が流れているんです。華江さんもそうでしょ?あっ!まさか、倫也さんの初めては自分も初めてでその後一度も誰ともお付き合いがなかったらごめんなさい。」

 

可哀想……という目を向けて言うと、激しく否定する声が返って来た。

 

「ば、馬鹿にしないでよ!倫也と寝た時は私はもう数人の人としてたわよ!20歳過ぎてたのよ!モテるんだから!別に倫也なんかどうでも良かったわよ、ちょっと遊んであげただけじゃない!私だって、結婚まで考えた彼くらいいたわよ!倫也よりずっといい男がね!!」

 

(プライド高いなぁ…うーん、武藤さんと同じ匂いを感じる。馬鹿にされたと思うとポロポロ話すわ〜。馬鹿にしたのは自分の方なのにねぇ。これが…親戚。)

 

疲れるとガックリと肩を落として、顔を見る。

 

「面倒なんでズバリ言いますねぇ?」

「何をよ!倫也返しなさいよ。」

強気の姿勢を崩さない華江の言葉を無視して、倫子は淡々と話を進めた。

 

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