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降り始めた雪と強い風に視界を奪われる

荒川。

 

降り始めた雪と強い風に視界を奪われる。

 

弓での攻撃も終わり、戦場はとうとう肉弾戦にもつれ込んでいる。

 

『鶴翼の陣』で臨むーー末端まで周知した陣形と戦法は、戦が始まってから素早く覆された。

 

今、高島軍の槍隊と騎馬隊は魚鱗の陣で沖田軍と対峙していた。

 

「たっ…高島信継だ…!!」

「首をとれ…!!」

 

大将である信継自身が最前線に出て、沖田軍は驚きと共に信継の首を狙って次々に襲い掛かってくる。

 

「来い!」

 

馬上の信継は大きな槍で向かってくる敵を次々になぎ倒していく。

 

「ぐうっ…槍も使うとは聞いてないぞ…!」

 

「馬鹿め!信継様は何でもできるのだ…!」

 

信継は冷静に告げる。

 

「無駄口を叩くな。参るぞ」

 

「はっ…」

 

高島軍の兵たちは、信継を信じて勇猛果敢に責めていく。

 

その瞳には、希望の光があった。

 

 

 

「どういうことだ…!!」

 

沖田軍後方。

 

少し高台になった場所で、戦況を見下ろす沖田龍虎はぎりぎりと指を噛んでいた。

 

高島包囲網ーー

 

高島を叩かんとする各国と盤石に練られた対抗策は、全てが裏目に出ていた。

 

「殿。

 

高島が急に陣形を鶴翼から魚鱗に変えました」

 

「バカにするな…!そんなことはわかっている…!」

 

「落ち着かれてください。

 

数の利は高島にある。

 

魚鱗で来るとは…情報の洩れに高島は気づいています」

 

「俺は冷静だ…!

 

くそっ…

 

相嶋め…甘言で沖田を騙したか…」

 

「…おそらく相嶋家は知らぬことでしょう」

 

「くそっ…」

 

沖田の老臣、藤原源左衛門は渋い顔で龍虎を見た。

 

ーー殿は、まだお若い。

 

それゆえ、感情的になりやすく、戦の経験も少なく

 

私がしっかりと…お支えしなければならない…。

 

源左衛門は視線を流して戦場を見つめた。

 

最前線。

 

天下に名の轟く高島軍の、高島信継。

 

舞い散る粉雪が天へ跳ね返されている。

 

真っ白な大きな馬に、真っ赤な鎧ーー

 

そこだけが、輝いているように見える。

 

ーーあの御方。

 

高島信継。

 

敵ながら、源左衛門は見惚れるような気持だった。

 

あの将ーーあんな立派な方に…お仕えできる者は幸せだ。

 

思わず浮かんだそんな不敬な考えに、緩くかぶりを振った。

 

 

 

「兄上!」

 

信康が馬を信継に近づける。

 

「ああ」

 

周囲から目を逸らさず、信継が答える。

 

「沖田は混乱しています」

 

それが示すのは、高島の事前の作戦がやはり漏れていたということだった。

 

「そうだな。

 

全力で行く。油断するな」

 

「はい!」

 

「このまま攻め込め。

 

沖田龍虎の首を捕る」

 

「はい!!」

 

高島軍は次々に沖田軍を蹴散らしていく。

 

荒川の北、南の山には同盟国の別動隊が控えていた。

 

殿の信八がのろしを上げさせる。

 

別動隊もそれを合図に出発した。

 

この時、高島軍の圧勝は、約束されたも同然だった。牙蔵は荒川近くの小さな森の中にいた。

 

直属の精鋭部隊たちから報告を受ける。

 

「やっぱりーー黒幕は相嶋」

 

裏切り者は5人。

いずれも調べれば、高島に討たれたり、滅ぼされた国の人間。

恨みを持つ人間が、伝手を使って秘密裏に城に入っていたのだ。

 

その者たちをそそのかして高島に入れたのが、相嶋。

 

「相嶋か…」

 

相嶋は高島より強大な国だ。高島の宿敵ーー。

牙蔵はフッと息を吐いた。

 

「他にもいるかもしれない。

 

ここ1年、城内に入った者のこと、早急に全て調べて」

 

「承知しました」

 

その時。

 

牙蔵の直属の部下の1人、伊造がスッとその場に現れた。

 

「…何?」

 

既に気配に気づいていた牙蔵が伊造を見下ろす。

 

「奥方様よりご伝言申し上げます。

 

桜さんが何者かに連れ去られました」

 

牙蔵は目を見開く。

 

「…」

 

牙蔵が反応しないので、伊造は不思議に思って顔を上げた。

 

「…いつ?」

 

「昨夜です。多賀芳輝様が来られました」

 

「…」

 

「…?」

 

牙蔵は低く言った。

 

「…わかった」

 

伊造が頭を下げる。

 

「伊造は城に戻れ。

 

他は手分けして桜をすぐ探せ」

 

「はっ…」

 

言うが早いか、牙蔵はあっという間にその場から消えた。

 

同じ頃ーー

 

「…これが?」

 

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