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聞こえてきた笑い声に

聞こえてきた笑い声に、栄太郎が抱き着いてきた原田を追いやって紫音に駆け寄った。「楓!!」「何!?目ぇ覚めたのかっ!?」駆け寄ってきた皆に、紫音は柔らかく微笑んだ。皆さん…生きてる…死の情景が頭から消える事はなかったけれど、今生きてる事に心から安堵する。こんな気持ちは始めてで、紫音はただ笑う事しか出来なかった。「どいてよ三馬鹿。楓、ほら、喉かわいてるでしょ」栄太郎が水を用意して、吸いさしを口元に持っていく。欲しかった水分に、紫音はごくごくと喉を鳴らした。「…ふぅ………子宮內膜異位症 經痛うございます」ゆっくりと喉を震わし、紫音は声を出せる事に安心しながら礼を言った。栄太郎は空になった吸いさしに水を足して、また口元に持っていく。飲んでいる、動いている姿を見て安心した栄太郎は、いつものように「この僕にこんな事させるんだから早く治してよね」と言った。「クスクス…高くつきそうですね「当たり前でしょ」ふふ…と笑う二人に、見ていた原田たちが我慢出来ずに割って入った。「なぁなぁ紫音っお前三日間も寝てたんだぜっ腹減ったろ!?」「三日…どうりで久方振りによく眠れた気がします」「どんだけ睡眠不足だよ~」「あはは、あっとりあえずそのまま寝てろよ!近藤さんたち呼んでくっから!!」「あっ俺も行く!!」「じゃぁ俺は源じぃに粥でも頼んでくっかな」紫音の言葉を聞かずに、原田たちはドタバタと部屋を出て行く。まさに嵐のような三人がいなくなると、栄太郎はふぅとため息をついた。「まったく…騒がしいったらないね。心配してるのはいいけど、うるさい事この上ない」「…心配?彼等が、ですか?」栄太郎の言葉に、紫音はキョトンと首を傾げる。栄太郎はその反応に苦笑いを見せた。「何驚いてんのさ。君が斬られてから毎日誰かしらここにいて様子を伺ってたよ。

すやすや寝てる君を睡眠不足の男たちが囲んでさ、なかなか見れる姿じゃないね「それは…」「心配してたよ。もちろん、僕もね?」念を押すように言った栄太郎を見れば、かすかに目の下に隈が見える。紫音は何と言っていいかわからなかった。心配なんてされた事がなかったから…。戸惑いを隠せない紫音に、栄太郎がまたため息をつく。「そんな顔されちゃ困るんだけどな。とにかく、僕は帰るよ。また来るから…楓はきちんと療養して。元気になったら着物を取りに行こう?カビ生える前にね」からかうように言うと、栄太郎はチラリと天井を見て立ち上がる。紫音は何とか起き上がろうとしたが、体にうまく力が入らず、起き上がれない。「いいよ。じゃぁまたね」起き上がろうとする紫音を制し、栄太郎は部屋を出て行った。仕方なく横になったまま、もはや見慣れた天井を見る。そこでようやく紫音は気配に気付いた。「山崎さん」声をかけると、天井の一枚が外れて、山崎が顔を出した。「後でな。今は近藤さん達を安心させたってや。さっきの奴が言うた通り、ほとんど寝んで心配しとったから」聞こえてきた近付く多数の足音。紫音は近藤たちだと理解して、困ったように笑った。「…何やの?」「いえ…心配された事なんてないからどうしたら安心させられるのかわからなくて」それを聞いた山崎は、一つため息をついて聞いた。「心配された事ないんや?」「…えぇ」「ほな教えたる。簡単やで?」ニヤニヤと笑う山崎に、紫音はすがるように促した。「どうすれば?」「笑ったり。いつもみたいなはっつけたような顔やのうて、心から。それで十分や。」言うだけ言うと、山崎は天井をもとに戻してしまった。

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