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愚痴と言ってしまって大丈夫

愚痴と言ってしまって大丈夫なのだろうかと沖田を見遣れば、それを察したのか笑顔で頷いた。

 

 

「それでは…、ご同伴に預かりましょうか」

 

山南はどうやら全く酒が飲めなかった。顯赫植髮 それを知ってか、沖田は酒を勧めることをしない。

 

 

「それで…どうかしたのですか。沖田先生が晩酌なんて珍しいですよね」

 

「ええ、まあ…。何があったという訳では有りませんが。貴女から見る今の近藤先生はどうですか」

 

そう問われ、直近の近藤の姿を思い出す。

恐らく戦後処理の関連だろうが、何処ぞに呼ばれては出て行き、夜遅くに酔い潰れて駕籠で帰宅する姿を、稽古帰りに何度か見た。

 

風に乗って、

「…総司も思っていましたか。あの方は真面目だから…。求められると一人でも先へ先へと進もうとする癖がある。…何だか、良くないことが起きるんじゃないかと不安ですよ」

 

山南は大きく息を吐く。副長という近しい立場だからこそ、見える所も広いのだろう。

 

「流石、山南さんだなぁ。私もそう思います。…もう、あの頃に戻ることは無いのでしょうね」

 

 

沖田はどんどん酒を口に運んで行った。

 

 

「大体、土方さんも…ずっと眉間に皺を寄せて紙と睨めっこなんて…。あの下手くそな俳句を詠んでいる方が余程良いですって」

 

沖田の言葉に山南は少し笑う。

土方には俳句を詠む趣味があり、""なるものを京へ来る前に作成していた。

 

その腕は沖田の言葉通りに上手くは無いが、自身の思いを素直に表現したものである。

 

 

「…ああ、嫌だなぁ!こんな事を思うなんて。余程、置いていかれた事が…嫌だったのかも知れません。寂しかったんですかね、私」

 

沖田のその言葉に、山南は驚いた表情を浮かべた。

 

「…珍しいですね。総司が自分の気持ちを言うなんて」

 

沖田は眠そうにしながらも笑顔になると、桜花の方を見る。

 

「ええ…。もしかしたら、この人の影響を受けたのかも知れませんねェ。桜花さんは感情表現が上手だから…」

 

「わ、私の…?」

 

「はい。何故…でしょう、本当に貴女は、不思議な……」

 

沖田の顔はすっかり赤ら顔になっており、そのまま後ろに倒れかけた。

桜花は反射的にその身体を抱きとめる。

すると、沖田はそのまま桜花の肩に寄りかかった。

 

 

「あ…、沖田先生」

 

沖田は目を瞑り、すうすうと寝息を立て始める。

先程まで話していたのに、もう眠ってしまっていることに驚いた。

 

山南は弟を見るような、慈しみの視線を沖田へ向ける。

 

「…いくら澄ましていても総司は寂しがりですからね。それにしても本当に珍しい。いくら酒が入っていても、になろうと必死に今の自分を作り上げてきたのだ。

 

子供の自分では役に立てないからと、言葉遣いも所作も改め、何事にも動じないようにと鍛錬してきたという。

 

山南は江戸にいた頃から、兄のように慕われて来たため、その変化に敏感だった。

 

 

「ずっと抱え込んで、どうしても我慢出来ない時に一人で酒を飲むんです。今日もその様子が見られたので、心配になって追ってきたら…。桜花君が居ました」

 

「そうだったんですね……」

 

 

山南は沖田の頭をそっと撫でる。

 

「…私の取り越し苦労だったようですね。総司はもう弱音を吐ける人を見付けたみたいです。…戯言だと思って聞いて頂いて良いのですが」

 

 

サア、と吹いた生温い風が髪を揺らした。

山南は桜花の目を見る。

 

「もしも、私の身に何かあれば総司を頼みますよ」

 

「何かって……」

 

 

不穏なその発言に、桜花は眉を顰めた。

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