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の慶喜公が恭順だっつってんのに

の慶喜公が恭順だっつってんのに、そこで戦う訳にゃイカンだろ」

 

 

 目の前に運ばれた膳にある味噌汁をズズッと啜りながら、眉を寄せる。

 

 それに、と言葉を続けた。

 

 

「今や、江戸にいる幕僚の連中は殆どが恭順派だ。https://www.bloglovin.com/@freelancer10/12245772 https://lefuz.pixnet.net/blog/post/121026982 http://janessa.e-monsite.com/blog/--80.html   陸軍総裁の勝ナントカって御仁もその筆頭だと聞き及ぶが……。何たって、の総裁サマも同じ有様だぜ。情けねえったらありゃしない。それでも江戸っ子かって話しサ」

 

 

 それを聞いた桜司郎は、雲行きの怪しさに顔を歪める。

 

 つまり憶測の範疇は超えないが、幕府は江戸での衝突を回避するために兵力を遠ざけようとしているのではないか。会津や桑名は帰るところがある上に、話せば上手く宥められる。しかし中途半端に力を持ってしまった浪人集団は、あれこれと理由を付けて餌を放らないと出て行かないと思ったのではないだろうか。

 

 

「それじゃあ、新撰組は……。幕府から捨て駒にされた可能性が高いということ……?」

 

「何とも言えねえが……。万が一にも勝てりゃあ、それはそれで良し。負けても新撰組が勝手にやったことだと言い逃れは出来るなァ」

 

「そんな…………」

 

 

 

 ありうる話だと目の前が暗くなった。「新撰組──甲陽鎮撫隊ってのはァ、先に城へ入る手筈なんだろう?足並みも揃って無ェ兵士が籠城をするのは悪手な気がするな。援軍は見込めるのかえ?」

 

 

 その問いに桜司郎は首を振った。いくら善戦したとしても、あくまで恭順を決めている幕府が援軍など差し向ける訳がない。

 

 

「そういう話は……」

 

「そうか……。俺も今の管轄は海軍だからなァ……。力になれそうも無ェや。すまねえ、兄!」

 

 

 榎本は眉を寄せると、胡座をかいた膝に両手を置き、ガバりと頭を下げた。

 

 それを見て桜司郎は慌てる。

 

 

「あ、頭などそう下げてくれるな。釜に負担を強いたくて相談したつもりでは……」

 

 

 そこまで言って閉口した。籠城の果てにあるものは何だったろうかと、昔に読んだ軍記物を思い出そうと頭を捻る。

 

 遠い記憶が脳裏を掠めるなり、たらりと汗が背を伝った。

 

 

 籠城したとて、薩長の本拠地は西にある。次々と湧いて出てくる敵をどのように止められるというのだろうか。銃弾も兵糧にも限りがある上に、刀も折れてしまえばそれまでだ。その間に幕府と薩長の間に講和が成れば、それこそただの犬死にではないか。

 

 

──もし上手く甲府城へ入れたとしてもその先が無い。援軍も退路も無い籠城に未来などあるものか。

 

 

 

「…………私たちは、になりたくてここまで来た訳じゃない……」

 

 

 いつの間にか拳は固く結ばれ、ボヤくようなそれは酷く虚しい響きを伴っていた。

 

 

「桜之丞兄…………」

 

「だって、そうでしょう。伏見でどれだけの犠牲を払ったと思っている……。為す術もなく、目の前であまりにも多くの人間が死んでいったというのに……」

 

 

 銃弾や怒号が飛び交い、血溜まりが出来た戦場を必死に駆けた時の恐ろしさが何度も浮かんでは消える。

 

 涙が出そうになり、慌てて天井を仰いだ。「……どうにか、その話しを断れねえモンかね。せめて、籠城を避けられれば……」

 

 

 榎本は腕を組みながら、大きな溜め息を吐く。

 

 その時、「それだ」と桜司郎が呟いた。

 

 

「それだ……それだよ、釜。籠城にさえならなければ、助かる道がある」

 

「け、けどよ。入城して迎え撃つようにと言われたンだろう?」

んだ……。そうすれば、こちらは撤退せざるを得なくなる……!」

 

 

 地図は無いかと要求すれば、慌てて榎本は江戸のそれを持ってくる。宿の主から借りてきたらしい。

 

 

「甲府までは……この甲州街道を通るだろう」

 

 

 桜司郎はスッと甲府へと続く街道をなぞった。そしていくつかの宿場を指差す。

 

 

「兄、そこは……八王子辺りか?」

 

「そう。上石原宿がある。ここは局長の御出生地なんだ。故郷に錦を飾ることを進言すれば……。ああ、少しは希望が見えてきた」

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