その背後に薩摩の援護は無かった。つまり、沖田が懸念していた彼らとの一戦が火種になることは、結果的に無いということが分かった。
「…………沖田さんは、大丈夫か。あれだけ慕っていた局長があのようなことになったんだ。穏やかでは居られまい」
山口の言葉に、桜司郎は首を横に振る。https://www.tumblr.com/crispyvoidtyrant/736495539597787136/%E3%81%97%E3%81%84%E6%84%9F%E6%83%85%E3%81%8C%E8%87%AA%E5%88%86%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%A0%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A6 https://freelance1.amebaownd.com/posts/50179484 https://community.joomla.org/events/my-events/re-sono-yankara-xiao-yanha-xiaoeteiru.html その脳裏には、ここ数日の沖田の様子が浮かんでいた。醒ヶ井に居る時は活力を取り戻したかのように見えたが、気力を失ったように再び寝込み始めたのだ。
だが桜司郎の前では食事も摂るし、笑うこともあるが、それすら痛々しく見える。
──本当は泣きたいだろうに。私が無理をさせているのかもしれない。
「…………そうですね。お辛いと思います」
俯いては寂しげな声を出す桜司郎を横目で見遣りながら、面白くないと山口は目を細めた。
「それにしても……、アレは良かった」
「アレとは?」
「あんたの啖呵だ。あのお陰で原田さんも目が覚めただろう。一度言い出したら引っ込みが付かない人だからな、安心したのではないか」
「た、啖呵というか……、あの時は必死で……!生意気を申しました……」
慌てつつ頬を染めるその姿を見ていると、まるでアレは別人のようだと口角を上げる。
そうしていると山口は他の隊士に呼ばれてしまったため、桜司郎は沖田の居る奥の部屋へと向かった。
しかし──
「沖田先生…………?入りますよ」
何度呼び掛けても返事が無い。寝ているのかと、恐る恐る中を覗くと、居るはずの布団はもぬけの殻だった。
目を見張ると、急いで沖田の行きそうなところを探す。厠や厨、近藤の療養している部屋も当たってみたが、その姿は見えなかった。──沖田先生、どこ……。
冬は日が暮れるのが早い。あっという間に西陽が傾き始めていた。
裏庭に伸びる廊下へ差し掛かったあたりで話し声が聞こえ、桜司郎は思わず立ち止まる。
気配を消しつつ、柱の影から顔を出した。
すると、そこには土方と木刀を手にした沖田が立っている。しかも沖田に至っては、着流しに肩へ羽織を掛けただけだった。身を切るような寒空の下で、綿入れも重ねずに居るとは狂気の沙汰としか思えない。
だがとても声を掛けられるような雰囲気では無かった。不本意ながらも立ち聞きをするような形になる。
「──桜司郎さんはね、あの残党を見付けた時に始末してしまおうと言ったんです。でも、それを私が止めてしまった」
独り言のように呟くそれを、土方は厳しい顔で黙って聞いていた。
「あれくらいの奴ら………やろうと思えば大した騒ぎにせずに何とかなったはずです。……命が短くなると、臆病風が吹くものなんですかね。もう私は、」
その刹那、沖田は咳き込む。近寄ろうとした土方を片手で制した。指の隙間から血が滴るが、それを慣れた手付きで懐紙で拭き取る。喀血してから時がそれなりに経った証だろう。
「私は、剣士ではなく、心までも病人になってしまったと言うことです」
「……あれは、お前のせいじゃない。もっと徹底的に残党狩りを指示しなかった俺のせいだ」
俯き、拳を握る土方の目には怒りがあった。それは目の前にいる男へのものではなく、遠い過去を見るようなものである。
──いっそのこと、早く戦になっちまえばいい。
日々募る重苦しさに、そう思っていた。けれども、その隣に近藤勇は居ないのだ。今までずっと此処ぞという時には彼が隣に立ち、支え合って来たと言うのに。そして修羅の如き腕を持つ沖田も病身だ。
この時、初めて土方は迫り来る戦が恐ろしいと感じた。