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いつの間にか

いつの間にか、背丈や雰囲気で沖田と分かるようになっていることに気付く。先程の女性も一緒のようだ。

 

 

「沖田、せんせーッ!」

 

 

その声に反応した沖田が桜花の方を向く。https://www.easycorp.com.hk/zh/trademark すると沖田の目が驚愕に見開かれていた。

 

沖田を無事に見付けて安心したのか、疲れも相俟ってすっかり油断していたのか。

その背後に別の浪士が斬り掛かろうと迫っていた。

 

 

「屈みなさいッッ、桜花ッ!!」

 

沖田の大声に反応し、その場に瞬時に屈む。するとその直ぐ真上で空を斬る音が聞こえた。

 

沖田の声が無ければ、首と胴体が泣き別れになっていただろう。桜花は生唾を飲み込んだ。

 

攻撃を躱したことで隙が生まれたのか、沖田は駆けながら即座に抜刀しそのまま浪士を斬り付ける。

 

 

「あ……」

 

 

力の抜けた桜花はそこに座り込んだ。沖田は安堵の息を吐くと、眉を上げて桜花へ鋭い視線を向ける。

血振るいをしてから刀を鞘に納めると地面に膝を付き、桜花の両肩を掴んだ。

 

 

「貴女という人は…ッ!一番怖いのは人間だと言ったじゃないですか。油断こそが七月二十日。

近藤や土方率いる新撰組は会津藩と共に天王山へ追討へ向かうこととなった。

 

そこには敗走した真木保臣を中心とした十七名の志士らが立て籠っていたのである。

 

翌日、新撰組は近藤と土方を長とする二つに隊を分けた。近藤隊は真木らのいる天王山の山中を目指し、土方隊はを固めることとなる。

 

 

真木は共に御所から逃げた兵士達を先に長州へ帰し、自らを務めていた。

久坂や来嶋の最期に何かを見出したのか、はたまた隊を率いる者の責務としたのか。彼の心情は誰にも分からない。

 

 

金のの衣という堂々たる装いをし、慣れぬ鉄砲を手にしていた。

 

 

新撰組と会津が攻めてきたという報により、真木らは持っていた鉄砲で銃撃戦を開始する。

 

しかし、直ぐに弾切れになり結果は火を見るより明らかとなった。

 

 

敗北を悟った彼らは小屋に立て籠り、自らそれに火を付けた。

 

「くッ、水を持ってきてくれ!」

 

 

焦った近藤は隊士に命を下す。だがその小屋は武器庫でもあり、火薬の勢いも手伝ってか火の勢いは増すばかりだ。

 

「この無念は国の仲間が必ずや晴らしてくれるじゃろう…。いざッ、さらばじゃ!」

 

 

肉を割く音や断末魔が辺りに響く。そのとも言える光景に、近藤らはただ立ち尽くすしか術が無い。

 

 

手柄こそは得ることが出来なかったものの、賊軍となればこの様な最期を迎えるという光景を近藤は目に焼き付ける結果となった。

 

多摩の百姓であれば決して目にすることの無かった光景である。

 

 

昇華するように燃える炎を見て、近藤は目を細めた。

 

「……敵ながら、見事な死に様だ」

 

 

何処にも語り遺すことは無かったが、この時近藤は池田屋騒動からこの戦に至るまでの長州志士の生き様に、心が揺さぶられる思いだったという。

 

 

やがて、下山し土方隊と合流した。

 

 

「近藤さん、どうだった」『吉田さ……』

 

吉田は桜花の前に屈むと、人差し指を桜花の唇に当てた。

その大胆な行動に桜花は顔を赤らめる。だがそれ以上に、月を背景に優しく微笑むその儚い表情に心惹かれた。

男性ではあるが、美しいという言葉が適していると感じる。

 

 

吉田はそのまま桜花の前に座った。

そしてそっと桜花の手を取る。吉田のそれは酷く冷たかった。

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